PC-486M族のBIOSエラーと
PC-486NOTE ASのVRAMエラー


PC-486MU/MV/MRの "持病" であるBIOSエラーと,PC-486NOTE ASの同じく "持病" であるVRAMエラーについて述べます.なお起動時に表示されるエラーメッセージについてはエプソン98互換機の自動チェック機能によるエラーメッセージ を参照.


■PC-486M族のBIOSエラー
PC-486MU/MV/MRには経年劣化によりBIOS ROMの内容が "消える" という "持病"(注1)があり,筆者の周囲でも以前二件発生しました.これは従来MUにだけ発生するものと考えられていましたが,詳しく調べると,MV/MRでも同種の問題が発生しているようですので(下北沢俊一さんの2019年1月4日辺りのツイートなどを参照.またヤフーオークションに出品されたこれら機種でも,その故障の症状から,BIOS ROMの内容が失われていると思われるものがみられます),MUで最も多く認められるものの,問題自体はPC-486M族の少なくとも複数の機種に共通の疑いがあります(注2・3).発症していない個体も多いようであり,また全個体が早晩必ず発症するものかも不明ですが,現在発症していないからといって安心はできないように思います(注4).
 注1:EPSON98サービス機構の2004年8月15日発行の同人誌,"E-SaPa別冊 蘇るEPSON PC伝説" の EPSON PCの拡張小ネタ集(pp.47-63)の記事などを見ると,これはユーザーの間では,故障ではなく経年劣化によるものと理解されていたようです.この理解がエプソンによる説明に基づくものかは不明です
 注2:PC-486M族の発売時期は,MU/MR/MSが1994年7月,MVが1994年11月,MEが1995年6月(PC-586RT/RJと並ぶ最後のエプソン98互換機)です.MEはともかく,MS(と,MVと同時発売のPC-586MV?)もこの"持病" を持っている可能性があります(但し筆者は今のところ発症例を確認していません).
 注3:PC-486GF/GRでも同様の障害が疑われる個体があるようですが,報告は現象のごく簡単な記述に留まっており,PC-486M族の "持病" と同種のものか今のところ明らかではありません.なお上記の同人誌の記事では,この障害はPC-486MU以前の機種では発生しないとありますが,2000年前後での見解であることに注意する必要があるかもしれません.
 注4:本記事の公開後に,PC-486MU/MV(MRは未確認)にはBIOS ROMチップがフラッシュROMのものとOTP-ROMのものとがあり,"持病" を発症するのはどうやら前者らしいということが明らかになってきました(詳しくは後述).

初期には起動時に ピピピピ と短いビープ音が4回続けて鳴り,画面に ERR:BR の文字列が表示されます.これはBIOSローダエラーが発生したことを示します(エプソン98互換機の自動チェック機能によるエラーメッセージ を参照).BIOSがロードできないため,本体を起動できません.この時点で既にBIOSの内容が壊れ始めている(あるいは不安定になり始めている)と思われます.その後,電源を入れると, ピ という短いビープ音が1回鳴ったきり,全面が白一色の画面を表示したまま全く動作しなくなります(注).ピ という短いビープ音が1回だけ鳴るというのはBIOS ROMの異常を示します(仮にこの時画面に何か表示されるとすれば,ERR:RO の文字列な筈です).これはBIOSが完全に壊れてしまった状態,恐らくはBIOSの内容が失われてしまった状態と思われます.
 注:しばらく起動させていなかった本体を起動させた場合など,この状態で発症に気付かれるケースも多いようです.

BIOS ROMの内容が破壊されるのは,フラッシュROMに書き込まれたBIOSのデータが "化けた",ないし "蒸発した" ためと考えています(注1・2).一般にフラッシュROMのデータ保持年数は20年程度が保証されているようですが,MU等のBIOS ROMの中には,データの実際の保持期間が随分短いものがあるようです.筆者が調べた限りでは,最短の発症(が疑われる)事例は,PC-486MRでの購入一ヶ月後というものです[EPSON98互換機(国民機)について語るスレ Rel.2.0の216番の投稿を参照].さすがにこのケースは初期不良などの可能性もありますが(購入したものが新品なのか中古品あるいは発売から年月の経った新古品なのかも不明),古いBBSのログを丹念に調べると,Nifty ServeのEPSON98互換機関連のフォーラムでは,遅くとも1996年には既にMUでのBIOS ROMエラーの頻発は(フォーラム内では)周知の問題であったらしいことがわかります.WWW上のBBSでも,1997-1999年頃になると,この問題に関してかなりの数の報告が現れており,当時のEPSON98互換機関連のBBSでは,この問題の存在は半ば常識化していた感があります.
 注1:PC-486M族にはBIOS ROMチップがフラッシュROM(三菱製M5M28F102)のものとOTP-ROM(27C1024)のものとがあるとのことです(yuyuyukkuriさんの2021年1月22日のツイート,また https://pc98.asukadns.net/?page_id=65 --> PC-98×1やEPSON互換機のメモ帳を参照).ツイッターの画像を調べると,確かにPC-486MU以外にもPC-486MVでBIOS ROMチップにフラッシュROMが使用されているものがあることが確認できます.なお28F102に書き込まれているBIOS ROMのバージョンはA05CWMU,また27C1024に書き込まれているBIOS ROMのバージョンはA07CWMUがそれぞれ確認されています(MCtek《えむして》さんの2022年10月28日のツイート を参照).
 注2:起動しないPC-486MU/MVでは,BIOSのデータが一部化けているとの報告があります[yuyuyukkuriさんの2020年12月16日17日のツイート放課後きゅうはちくらぶ ♪ --> PC-98×1やEPSON互換機のメモ帳,おふがおさんの2021年4月3日のツイート(123)を参照].

PC-98でもフラッシュROMのデータ化けや蒸発の可能性は問題視されており.PC-9821およびDOS/Vソフトウェアのページ -->PC-98のFDローダ応用ツール(システム設定・改造ツール) において,ROMSUM(ITF/BIOS ROMのチェックサム異常を判定するソフトウェア)やROMREFRS(ITF/BIOS ROMの記憶データをリフレッシュするソフトウェア)が提供されていますが,筆者の知る限り,エプソン98互換機のフラッシュROMの内容が消失することに対しては,本記事の執筆時点で有効な対策法はありません.ROMの内容の消失が(まだ)起きていない状況ならば,ROMの内容を吸い出して保存しておき,かつそれを書き戻す準備をしておくことも可能でしょうが,それらは一般的なユーザーにとっては容易なことではありません.
 追記1:データ化けの発生した2個のBIOS ROMのデータ同士のANDを取ることにより,BIOS ROMデータの復元に成功した例があります(おふがおさんの2021年4月11日のツイート を参照).
 追記2:おふがお研究所 --> プログラム (Programs) --> FlashFix において,フラッシュROM用ハッシュファイル作成およびデータ化け修復ソフトウェアが公開されました.数ビット程度のデータ化けであればこれにより修復可能といいます.PC-486M族のBIOS ROMにも勿論適用でき,PC-486MUのBIOS ROMのハッシュファイルが添付されています.またPCのBIOS ROMに限らず,フラッシュROM一般に適用可能と思われます.なお別な方法もあるといいますが,具体的には不明です(しもやんさんの2022年3月12日のツイート を参照).
 追記3:BIOS書き込み用のフラッシュROMとROMライタについては,しもやんさんの2019年9月7日・2021年4月18日(1234)のツイートに情報があります.
 追記4:PC-486MVのBIOSを書き込んだフラッシュROMのデータは,書き込みから2年半程度で一部が失われ始めていることが確認されたといいます(しもやんさんの2022年3月12日のツイート を参照).


■PC-486NOTE ASのVRAMエラー
これはPC-486NOTE AS特有の "持病" であり,筆者の知る限り,他の機種での報告はありません.

起動時に画面に ERR:VR の文字列が表示され 短いビープ音が ピピピ と3回鳴ります.これはVRAMの異常を示すメッセージですが,多くの場合,起動のたびにこれを繰り返し,何度目かに完全に故障するといいます(どるこむの過去ログ,ERR:VR を参照).筆者はこの故障に遭遇したことがないため,具体的にどのような状態になるのか分からないのですが,画面に何も表示されなくなり,短いビープ音が3回鳴るだけになるのでしょうか.

この故障は,ダイナミックパワーセーブ機能(CPUの温度が一定以上に上昇した際にクロックをダウンさせる機能)が切られた状態で使用していると,CPUの発する熱により,画面表示に関係する部品が破壊されるために起きるとされています.下はPC-486NOTE ASの底面のカバーです.下段はカバーの裏面で,CPUモジュールの熱を逃がすために薄い金属板が貼り付けてありますが,これだけでは排熱が不十分なのでこの故障が発生するのでしょう.


このカバーの下に,表(上段)にCPUモジュールとSIMMソケット,裏(下段)にVRAMとそれに関係したQFPチップなどが取り付けられた基板があります(注).
 注:この基板の裏面はアルミ板が貼られたキーボードユニットの底面の下に位置しますが,筆者所有のPC-486NOTE ASでは,基板上のVRAMやQFPチップはキーボードユニットの底面と接触していません.部品の表面を少し濡らした状態でキーボードユニットを取り付け,キーボードを上から少し押してみても,キーボード裏面は濡れません,従って少なくとも筆者のPC-486NOTE ASのキーボードユニット底面のアルミ板は,これらの部品の熱を逃がすのに全く役立っていません.


CPUモジュールの真裏の部分に隣接する領域(15.9744MHzの発振子の真裏)に,EPSON E01303BA GAFLOW と書かれたQFPの大きなカスタムチップがあります(画像下段右下,基板上のシルク印刷はU4).またSIMMソケットの裏に,EPSON E01302BB GAFLAP と書かれたQFPの大きなカスタムチップ(基板上のシルク印刷はU3)と,VRAMである 三菱 M5M44170AJ 341SD01-8L が4個(基板上のシルク印刷はU6・U7・U8・U9)あります.恐らくVRAM自体よりも先に,E01303BA GAFLOW がCPUの熱により破壊されるのでしょう.
 追記:VRAMエラーが発生しても,ERR:VRのエラーメッセージが表示されていない場合には,本体のリアパネル側のFDD/Lスロットの横の 4個の NEC D421664-70L(uPD421664-70L,基板上のシルク印刷はU53・U54・U55・U56)というDRAM(64kB×16)の斜め裏(注)の EPSON E02113EB GAFTDP なるチップ(基板上のシルク印刷はU71)が故障している可能性があるとのことですが,筆者には状況がよくわかりません(ETHYLE~1.SYSさんの2021年1月18日のツイートを参照).
    注:ロットによってこのチップ(ASIC?)の基板上の位置が異なり,それに対応してシャーシ内壁の凹みの位置も異なるのでしょうか?(ETHYLE~1.SYSさんの2021年12月24日のツイート を参照).

後続のPC-486NOTE AU以降の機種では,ヒートプロテクション機構が搭載され,かつダイナミックパワーセーブを無効にしようとすると警告を発するという形で対策が取られたといいます[PSON98サービス機構の2004年8月15日発行の同人誌,"E-SaPa別冊 蘇るEPSON PC伝説" の EPSON PCの拡張小ネタ集(pp.47-63)を参照].しかしサードパーティー製のCPUアクセラレータには高クロック動作のものがあり,そのようなものを取り付けた場合には,エプソンが想定していた以上の熱が発生し,故障の原因となる危険性があります(注1).このためアセットコア・テクノロジー製のVIPER Max Drive SUV100やVIPER Max Drive 586NUV(ともにAU/AV用)には,Viper Max Drive SUV-HSKという専用のアルミ製放熱カバーが用意されていました[CPUアクセラレータにも付属していたかは不明(注2)].下はViper Max Drive SUV-HSKの画像です.ヤフーオークションで出品者IDが s068259,オークションIDが h149003547(2011年2月18日に落札)の出品物の説明に使用されていたものを80%に縮小後jpg形式に再変換した画像を引用します.


 注1:エマティなリサイクル --> 研究発表会 --> 486機用CPUアクセラレータ対応表 を参照.
 注2:Viper Max Drive SUV-HSKはPC-486NOTE AU/AV対応となっており,AS用のVIPER Max Drive SUV75とVIPER Max Drive 586NASでも使用できるかは不明です.これらのCPUアクセラレータに同様の放熱カバーが付属していたかも不明です.なお下の画像はこの放熱カバーを取り付けたPC-486NOTE ASのものですが[このことから,Viper Max Drive SUV-HSK(相当品?)をPC-486NOTE ASに取り付けること自体は可能とわかります],CPUはモジュールのi486SXをAm5x86-P75(Am5x86-133)に直接貼り替えてあるとのことです.ヤフーオークションで出品者IDが kurohane,オークションIDが w411328924(2020年8月22日に落札)の出品物の説明に使用されていたものから切り出して半分に縮小後jpg形式に再変換した画像を引用します.


ユーザーによる放熱カバーの作成例があります.赤茄子の街 --> 青の家 -->手術室 --> 2.アルミ裏蓋制作 を参照して下さい.またこの記事とは独立に作成されたものなのかもしれませんが,自作された放熱カバーの画像があります(注).ヤフーオークションで出品者IDが yanzi625888,オークションIDが b1063200057(2022年9月13日に落札)の出品物の説明に使用されていたものから切り出して半分に縮小しガンマ補正値を上げた後jpg形式に再変換した画像を引用します.本体はPC-486NOTE AVで,アルミ裏蓋周辺の白い汚れのようなものは粘着テープを剥がした跡と思われます.この例ではネジ留めするだけではCPUの表面と放熱カバーとの接触が十分でなく,粘着テープによる追加固定を必要としたのでしょう.
 注:この種の放熱カバーを単に取り付けただけでは,長時間使用した場合に熱暴走が起きるとの報告があります[shige-ruuuさんの2023年9月8日のツイート(12),X68PROさんの同日のツイート を参照].


 また上記の "2.アルミ裏蓋制作" の記事中の アルミ裏蓋の実験結果はこちらです で言及されているコンピュータテクニカ製のFAN-98(記事中では98FANとありますが同じものでしょう)の資料がありましたので掲載します.コンピュータテクニカ パソコン周辺機器総合カタログ(1996年5月1日作成)をスキャンしてモノクロ化した画像を引用します.


ヒートシンクのついた放熱カバーを作成した例もあります.元々のゴム足ではフィンが設置面と干渉するため,厚手のゴム板を切ったものを本体(PC-486NOTE AV)の底面に貼り付けています.ヤフーオークションで出品者IDが lnetoff2,オークションIDが x709446451(2020年7月1日に落札)の出品物の説明に使用されていたものから切り出して270゜回転し1/3に縮小後jpg形式に再変換した画像を引用します.




※98ノート用のCPUアクセラレータでも,I・Oデータ,メルコ,コンピュータテクニカ製の高クロック(ベースクロックの3倍以上)動作のものの多くには,専用の金属製放熱カバーが付属していました.下はPC-9821Nd/Ne2用のI・Oデータ製PK-Nd133A(CPUはAm5x86-133で133MHz動作)に付属している放熱カバーです.装着時には "注意" の文字のあるシールの真下にはCPUアクセラレータが,放熱用と思われる多数の穴の下には増設RAMボードが位置します.


つねごんさんの2022年8月2日のツイート によれば,PC-9821Ne2ではAm5x86-133を使用したCPUアクセラレータを常用した場合,発生する熱によってマザーボードがダメージを受けるといいます.リツイート先で挙げられているCPUアクセラレータのうち,I・Oデータ製PK-Nd75は,CPUへの供給クロックを33MHzから25MHzに落として3倍速で動作させる製品であり,メーカーによって発熱は比較的少ないと判断されたために専用の放熱カバーは付属していませんが,メルコ製HND-33QPは,上記のI・Oデータ製PK-Nd133Aと同じく33MHzのベースクロックをCPU内部で4倍の133MHに上げてCPUを動作させる製品であるため,やはり専用の金属製放熱カバーが付属しています.しかしAm5x86-133を使用したCPUアクセラレータでは,付属の放熱カバーを使用しても自然空冷による冷却効果は実は十分ではなかったというわけです.


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