PC-98のコイン型リチウム二次電池と
一次電池によるその代替


PC-98の中・後期型の機種では,カレンダ時計バックアップ電池として,リード線とコネクタつきのコイン型(ボタン型)リチウム二次電池(+3V)が使用されています.

これにはSANYO製(現在はFDK製)のML2430とPanasonic製のVL2330とがあります(注1・2).これらはともにリード線(赤が+で黒がGND)の先に3ピンメスコネクタが取り付けられていますが,リード線の接続先のピンが両者間で異なります(下図中央と左).これはこれらの電池の充電電圧が異なるためで,マザーボード上の3ピンオスコネクタ側で充電のための直列抵抗の接続を替えることで,この充電電圧の違いの問題に対処するようになっています(注3・4・5).
 注1:MLは二酸化マンガンリチウム,VLはバナジウムリチウムの意とのことです(試運転の資料館 --> 電算機部 --> PC-9801 LX4 の二次電池について,てんまにちゃんさんの2022年3月7日のツイート を参照).
 注2:2002年9月の時点でML2430は現行品ではなくなっている(?)との情報があります(sakohitiさんの2022年9月28日のツイート を参照).購入前に確認の必要があるでしょう【追記:ML2430は廃品種となったそうです(第三研究所@TRISSさんの2022年9月28日のツイート を参照】.
 注3:どるこむの過去ログ,[47174] 日付が2051年??? などを参照.
 注4: ML2430とVL2330の充電電圧は順に3.1±0.15Vと3.25-3.55Vであり,充電に必要な電圧の高いVL2330は,ML2430に比べて充電できる容量が少なくなるといいます.満充電状態での内蔵時計の保持期間は,ML2430で6-8か月程度,ML2330ではその半分程度といいます(PC-9821/9801スレッド Part86の549・553番の投稿を参照).
 注5:パナソニックの充電回路 充放電サイクルの資料も参照.


PC-9801BX/BA,PC-9821Ce(tshさんより情報をいただきました),およびPC-9821Ap/As/Aeでは,2ピンコネクタのVL2330が使用されています(上図右).PC-9801FA/FS/FXではVL2330がマザーボードに直付けされており,実質的に "2ピン" 型実装と言えます.またノート機(およびPC-9821Es.これはおふがおさんより情報をいただきました)用のPanasonic製のVL2320のコネクタも2ピンで,結線も2ピン型のVL2330と同じです(注1・2).ただしこれのハウジング(端子が填め込まれているプラスチック部分)は茶色ではなく黒色です.
 注1:コネクタが3ピンでなく2ピンのPC-9801BX/BA(/FA/FS/FX),PC-9821Ap/As/Ae/Ce,および98ノートに対応する電池はVL2330またはVL2320のみであり,ML2430は対応していないことに注意が必要です.
 注2:VL2320は2020年に製造終了となりました.推奨代替品はVL2330とのことです(WIDENETさんの2021年6月1日のツイート を参照).VL2330とVL2320は推奨充電電圧・推奨充電電流とも等しく,また前者は後者より放電容量が若干多いといいますので(Framのレトロハードメンテナンス記録 --> PC-9821系2機種のバックアップ電池交換(2015年5月9日の記事)を参照),この代替に問題はないでしょう.


リード線とコネクタのついたML2430は,現在でもごく稀に稲電機等で売られている場合がありますが(注1),一般には入手困難です.しかしML2430,VL2330ともに,タプつきのものの入手は容易ですので,これにリード線とコネクタを取り付けて絶縁処理(熱収縮チューブ等の絶縁体で電池部分をくるむ等)を行えば,交換用の電池として使用することができます(注2).ML2430,VL2330ともに,メーカー名や型番の文字列が刻まれている側が+(赤ライン側)です.
 注1:常時チェックしていたわけでもありませんが,2024年3月の時点で何年もの間販売を確認できていませんので,扱いないし生産自体が終了したものと思われます.
 注2:本記事の公開後に,詳しい記事が既に余所で公開されていたことを知りましたので,リンクを示します:What will be, will be!! Its's {HIRO}'s Blog!! --> PC-9821As2(改)の内蔵リチウム電池を交換してみよう!!(2009年11月1日の記事),アルファベット三文字の会 Ver.2 --> [PC-9821]バックアップバッテリ VL2330/ML2430 交換(2016年2月5日の記事).

ただしタブ付きのコイン電池にリード線をハンダづけすることは容易ではありません.PC-9821/9801スレッド Part81 の236-240番辺りの投稿 などでハンダづけの仕方が説明されていますが,コイン電池では,長時間熱を加えると電池内部のセパレータが溶け,容量が激減したり,ショートして発熱・発火・破裂する危険があります.なおコイン電池ホルダが市販されていますが,一次電池用であり,それを二次電池用のホルダとして使用するのは危険とのショップの見解があるといいます(めぐみんさんの2020年12月21日のツイートを参照)(注).
 注:接点がニッケルメッキを施されていない(そのため接触抵抗が高く,また電蝕が発生する危険性がある?)というのがその理由のようですが,電池ホルダには接点がニッケルメッキ仕様の製品もあります(リサイクル掲示板2022年2月過去ログの "買い物ヤフオクツイッターウォッチ2022年2月-1" スレッドを参照).

元々の電池のコネクタはハウジングが茶色のものですが(注1),稲電機等で販売されているML2430にはハウジングが白色のコネクタ(注2)が使用されています.これは茶色のコネクタと形状がわずかに異なるようで,マザーボード側の茶色のオスコネクタときちんと嵌合しないといいます(この情報もtshさんよりいただきました.Naopy Hobby Land --> enter --> PC --> PC-9801US の "RTCのバックアップ電池をどうするか" の項でも指摘されています).液漏れ等で元々の電池のリード線やコネクタのピンが腐食していなければ,電池の交換の際には,元々の電池のリード線やコネクタを再利用するのがよいでしょう.
 注1:日本航空電子工業のIL-Sシリーズの2ピンまたは3ピンのもののようです(Naopy Hobby Land --> enter --> PC --> PC-9801US の "RTCのバックアップ電池をどうするか" の項を参照).
 注2: ML2430用の白色コネクタは日本圧着端子製PHR-3,VL2330用の白色コネクタは日本圧着端子製PHR-2とのことです(PC-9821/9801スレッド Part86の549番の投稿を参照).

PC-9801FAやPC-486MUなどではコイン型リチウム二次電池がマザーボードに直接ハンダづけされていますが,これをリード線タイプのものに交換することも可能であり,実際の工作の報告もいくつかあります.作業時には電池の極性を間違えないよう注意する必要があります.


二次電池であるML2430やVL2330を,小信号スイッチングダイオード+抵抗+CR2032(+3V一次電池)+電池ホルダで代替する工作の例も多数報告されています[ワイルドで現金な邪念の掃き溜め の 98のバックアップ電池をCR2032で代用する(2011年3月25日の記事) と 98のバックアップ電池をCR2032で代用する その2(2011年3月26日の記事),PC-9821/9801スレッド Part30の664-703・940・941・948番の投稿,PC-9821/9801スレッド Part31 の165番の投稿 等を参照](注1・2・3).ダイオードを挟まないで一次電池をそのまま接続すると,最悪の場合には電池が破裂します(注4).
 注1:MATE-AではVL2330/ML2430のプラス側端子とマイナス側端子の電圧はそれぞれ+5Vと約+2Vです.このためMATE-Aでは,電池のー端子をGNDに誤接続しないように注意する必要があります(Naopy Hobby Land --> enter --> PC --> PC-9801US の "RTCのバックアップ電池をどうするか" の項,PC-9821/9801スレッド Part94の133・134番の投稿 を参照).
 注2:ダイオードを使用することで最大値回路になるため,充電回路の動作を止める工作をする必要はないといいます(PC-9821/9801スレッド Part95の193番の投稿を参照).
 注3:ML2032を使用した同様の試みもあります(- --> ポチを参照).
 注4:充電回路の動作を止めてしまえば一次電池を直接接続できますが,充電回路へのラインのパターンカットなどの不可逆的な工作が必要となります(【NEC】PC-9800スレ 2台め【PC-98】の529-533番の投稿を参照).

ただしダイオードを挟んでもわずかに電流が流れてしまうのと(注),マザーボードに流れる電流の電圧が一般的なシリコンダイオードでは0.6-0.7V程度降下してしまうという問題があります(これでも動作自体はしますが).ガラス管型のスイッチング用小信号シリコンダイオード(1N914,1SS270A,1N4148,1SS133M等)は電圧降下が少ないため(例えば1SS133Mを挟んだ場合の電圧降下は0.4V程度),これの使用を奨める人もいます[かおるさんの2020年7月14日(12)と9月7日のツイートを参照].但し常時通電するような使い方をする場合には,わずかに流れる充電電流で液漏れする場合があるため,電池をケースで覆うことを推奨する人もいます(PC-9821/9801スレッド Part86の549番の投稿を参照).
 注:"電池に流れ込んでも破裂を起こさないと見込まれる最大電流値" としてメーカーから公表されている値は,CR2032では10mAですが,これはダイオードが故障した場合に電池が耐えられる電流の最大値です.ダイオードの逆電圧漏れ電流の許容値には別の基準があり(電池のメーカーごとに値が異なります),適切な漏れ電流許容値についてはユーザーが見積もる必要があるといいます[Framのレトロハードメンテナンス記録 --> PC-8801FH/MHのバックアップ電池CR2032化(2014年12月9日の記事)を参照].

またPanasonic製eneloopによる代替報告もあります[リサイクル掲示板2017年10月過去ログ の "先週のハードオフ" スレッド,同じく研究発表専用掲示板の "バッテリ電圧低下と症状の関係" スレッド(2017年10月6日以降)SAKURA工房の修理備忘録的なナニカ --> PC-9801関連 の RTC用バッテリー の項 を参照](注1).この場合,電池ボックス(注2)を筐体背面外部に取り付けている例もありますが(リサイクル掲示板2021年8月過去ログの "買い物ヤフオクツイッターウォッチ2021年8月-2" スレッド を参照),これだと電池の交換も容易でしょう.
 注1:おふがおさんの2022年2月13日(12345678)・2023年2月13日(1234)のツイート と 今年こそハピエン灰イージーさんの2022年2月13日のツイート も参照.
 注2:100円ショップで売られているショットキーバリアダイオード付きUSB充電用電池ボックスを利用している例もあります(Takeruさんの2022年5月30日のツイート を参照).この場合,電圧降下は0.05V程度と無視できるレベルといいます(Takeruさんの2022年5月31日のツイート を参照).ニッケル水素電池を使用する場合,2本でなく3本を接続すべきといいます(おふがおさんの2022年9月28日のツイート を参照).またeneloopなどでなく安物の電池を使用したら液漏れして大変なことになったとの報告(あるいはこれはノート機のサスペンド用電池の話でしょうか)があります(つねごんさんの2022年9月29日のツイート を参照).なおコネクタ(ソケットコンタクト)の端子部分は,日本圧着端子製造(JST)のSPH-002T-P0.5Lないしその互換品です(Takeruさんの2022年5月30日のツイート を参照).

他にスーパーキャパシタによる代替の試みもいくつか報告されていますが,あまりよい成績が得られていないように思いましたので,本記事では扱いません.

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