FD1139C・FD1139Tの分解と修理


FD1139Cの分解方法について述べます.基板上の電解コンデンサの交換を行うにはこの分解作業を行う必要があります.FD1139Tの場合も同様の手順になります.なお分解方法はFD1138TFD1231Tと基本的には同じです.FDDは精密機器であるということをつねに念頭に置きながら作業に取り組んで下さい.

天板には左右で形状の異なるツメが4個あります.精密ドライバ等を用いて外します.


画像上段でのツメはFD1138Tのものとほぼ等しいですが,下段でのツメは内側に折れ曲がり,FDD側面に刺さるようになっていますので注意が必要です.また天板は後方で一部がビニールテープで留められていることがありますので,その場合はあらかじめそのテープを剥がしておきます.

FDDの中程の位置に機能不明な平棒状の金属部品(注1・2)がありますので,これを外します.これは単に溝にはまっているだけなので簡単に外せます.
 注1:ジュンツウネット21 --> Q&A 潤滑油そこが知りたいQ&A --> グリース --> フロッピーディスクドライブに使用される潤滑剤 によると,これの名称は "梁" といいます.試運転さんより,FD1139シリーズは薄型のFDDで造りも華奢なので,剛性確保あるいは上方向からの力により破壊されないようにするための部品ではないかとのコメントをいただきました.確かに "梁" という名称はそのような機能を表しているとも思えます.
 注2:これの代わりに大きな板状の金具が使用されているFD1139C/Tも存在します(きょろサンチームさんの2020年7月19日のツイート を参照).このタイプでは天板のネジの位置も異なります(Youtubeの動画,[PC-98]NEC PC-9801NS/Aその③ FDDメンテナンス・完結編 ジャンク 修理 を参照).筆者は結構な数のFD1139C/Tを見てきましたが,このタイプのものには遭遇したことがありません.前期ロットで採用されていた "梁" では強度が不足していたことが明らかになったために設計を変更して製造された後期ロット(の一部?)なのだろうと予想しています.

メディア挿入口のフラップとイジェクトボタンを外します.これらは紫外線(?)等によるプラスチックの経年劣化のため,破損しやすくなっていますので注意して下さい.下はフラップ(シャッター)のばねの掛かり方です.


イジェクトボタンのはまっていた金具の突起部分をラジオペンチなどでFDDの内側に押し込みます(イジェクトボタンを深く押し込む形になります).
 そうするとメディア格納部上部の金属板(カセットホルダー)が外れて浮き上がりますので,ヘッドやフィルムケーブルなどに注意しながらその金属板を外します.この金属板の左右の側面にはグリスが塗られている部分がありますので十分注意して下さい.外したらFDD挿入口などを掃除します.

ターンテーブルや制御基板等が露出した状態となりますので,FDD内部を慎重に清掃します.

電解コンデンサ(10V-10μF,2個)付近の様子です.赤文字の+は陽極(+5V側)の意です.制御基板名は不明ですが,このFDDは1993年4月製のものです.なお下の画像の電解コンデンサは2個とも液漏れしており,漏れ出した電解液が周囲に広がっています.陰極(GND側)のリード線がハンダづけされている基板の部分のハンダの表面が輝きを失い,やや緑がかって見えることから,液漏れの事実がこの画質の悪い画像からも容易に見て取れます.陽極側のリード線のハンダづけ部分も同様の見えを呈していますが,これは陰極側から漏れ出した電解液が基板上で陽極側にも広がっているためです.また画像でははっきりしませんが,周囲のチップ抵抗やチップコンデンサの電極部分のハンダも光沢を失い,灰(緑)色のカビが生えたような見えを呈しているはずです.


電解コンデンサは直径3mmのものが取り付けられています.メディアを挿入した状態で制御基板とメディアとの距離は6mmです.筆者は手持ちの直径5mmの電解コンデンサに交換しました.メディアと干渉しないよう,取り付け時にコンデンサの腹が基板にぴったりとつくように足を曲げておきます.このように高さの制限の問題が大きいため,最近は交換用のコンデンサとして積層セラミックチップコンデンサ(注)を選択したとの報告も増えています.
 注:アルミ電解コンデンサ積層セラミックコンデンサ(MLCC)のERS周波数特性については,村田製作所の技術記事,コンデンサのインピーダンス ESRの周波数特性とは?(2012年11月28日の記事)を参照.てんまにちゃんさんの2024年2月26日のツイート,つねごんさんの同日のツイート も参照.積層セラミックコンデンサには印加電圧による容量低下(DCバイアス特性)という問題もあるようですが,元々取り付けられていた電解コンデンサにも容量の精度や経年変化の問題があることなども考えると,今のケースで大きな問題になるようなものかは筆者には判断できません.

これとは別な構成の制御基板(電解コンデンサの形状も別)も存在します.基板名はG8PYH-2-3で,FDDは1994年12月製です.これはPC-9801NS/Aに内蔵されていたもので,この機種はAp3などより出荷時期が後ですから,この電解コンデンサ(10V-4.7μF,2個)は四級塩品ではないかもしれません.実際に液漏れは認められないようでした.なおいずれの制御基板も,134-857789-NO KU-0494V-0▲ のシルク印刷は共通でした.


電解コンデンサの近くには他の電子部品がいくつもあり,またヘッドと制御基板を繋ぐフィルムケーブルもすぐ近くにあるため,ハンダゴテを使った作業では注意が必要です.特にこのフィルムケーブルは長くて作業時にかなり邪魔になりますので,一方の端をコネクタから外してあらかじめ除けておく必要があります.筆者はこのフィルムケーブルを紙片で挟んでFDDのフレームにセロファンテープで固定しました.このケーブルは反発力が強く,反対方向に曲げてもすぐに戻ってくるため,ハンダゴテを使った作業を行う前に確実に固定しておくと安心です.


イジェクト時のメディアの戻りが悪い場合には,この金具の根元の巻きばね(上図左下の◎状の部分)に注油するとよいようです.ここのグリスが劣化するとこの金具の滑り(回転)が悪化するようです.

作業が終了したら逆の手順で組み立てます.メディア格納部上部の金属板は,FD1138TやFD1231Tと同様に,位置合わせ後,イジェクトボタンのはまっていた突起部分をラジオペンチなどを使ってFDDの内側に押し込むとカチッとはまります.個人的には,一連の作業で最も気を使うところです.どのFDDでもそうですが,この金属板は絶対に無理にはめようとしないで下さい(注).はまり方がおかしいと少しでも感じたら,すぐに作業を中止して位置合わせをやり直して下さい.作業を強行した結果どこかに引っかかって動かなくなったという場合には(これをやってしまった時には本当に焦ります),無理な力で押したり引いたりすると金具を変形させてしまう危険性があります.また平棒状の金属部品の組み込みも忘れないよう注意して下さい.
 注:samo1000's blog --> PC --> FD1139T修理的な何か(2021年12月12日の記事)も参照.

メディア検出用のマイクロスイッチの接点が劣化すると,メディアをセットしていない時にもアクセスランプが点滅したり,突然ブブブ…という音(正体はヘッドが取り付けられているアームが異常動作する際に出る音)が鳴ることがあります(注).この場合の修理方法は FD1137Dの分解と修理 を参照して下さい.
 注:Lynfieldさんの2023年4月20日21日のツイートに,マイクロスイッチの接点が劣化するとリニアモータが動かなくなると取れる記述がありますが,これはマイクロスイッチの接点が劣化して電流が流れなくなってしまっているために,セットされたメディアの検出が行われず,従ってヘッドも動かなかったということでしょうか.

FD1138Tなどと同様に,スピンドルモータの軸受け部分の潤滑が低下して回転が重くなり,メディアにアクセスできなくなる場合もあるそうです."各社FDD修理いたします/FD1238T/FD-235GF" のNEC PC-9821Na用FDD FD1139Tの修理 その2 (2014年6月27日の記事) と てんまにちゃんさんの2022年4月13日のツイート でスピンドル部分への注油の仕方が紹介されています.筆者自身は試したことはありません.明らかに製造後に分解されることが考慮された構造になっておらず,作業により新たに軸のブレが起きるなどの危険性はないのでしょうか.

また,ヘッドが取り付けられているアームの移動が繰り返されるうちに,アームの下のプラスチック製(?)の土台部分が磨り減って,土台内部のコイルが露出し,その後のアームの反復移動によってコイルの電線が摩耗し(断線ないし?)ショートしたためにヘッドが動かなくなるという故障もあるといいます[てんまにちゃんさんの2021年9月6日(12)・10月27日28日のツイート と つねごんさんの2021年9月6日10月28日のツイートを参照](注1).故障前であればミシン油などの粘度の低い潤滑油を塗布することで延命可能といいます[てんまにちゃんさんの2022年2月28日・4月13日(12)のツイート を参照](注2).シリコングリススプレーの使用報告もあります(つねごんさんの2023年5月16日のツイート を参照).
 注1:この土台部分が磨り減っていない状態は,てんまにちゃんさんの2021年10月30日のツイートの画像を,また土台が磨り減ってコイルが露出している(さらにコイルの電線も摩耗してしまっている)状態は,てんまにちゃんさんの2021年9月6日のツイート,アリゾナ@2205??さんの2021年11月21日のツイート,わんくんさんの2022年4月13日のツイート(12)を参照.銅色の細い電線の束(コイルの一部)が露出してしまっているのがわかります.筆者はこれらのツイートでこのような状態になっているFD1139C/Tを初めて見ましたが,現在では同じような状態となってしまっている個体は少なくないのかもしれません(わんくんさんの2022年4月20日のツイート を参照).この箇所の摩耗に対する設計時の予想が甘かったのではないかとも思えますが,あるいは摩耗の度合いの正しい予想に基づいて設定された耐用年数を過ぎて使用されてきたFDDの一部がこのような状態になっているのかもしれません.
 注2:X68000の5インチFDDのギアに関する話題ですが,ミシン油はプラスチックを劣化させるとの情報があります.(カタさんの2021年3月28日のツイートを参照).このギアの場合には,潤滑油としてスーパールブの使用報告があります[fujitech pro-68kさんの2018年12月7日2021年3月28日のツイートを参照].なお日焼け等の防止目的で使用されるアーマーオイルなども最終的にはプラスチックをボロボロにしてしまうといいます(ELS3softwereさんの2023年5月5日6月3日のツイートを参照).

また,PC-9821Naの "後期型" FD1139T(注)にはヘッドの位置ズレを起こしているものが多いといいます(つねごんさんの2021年10月27日のツイート を参照).しかしFDDのヘッドの位置の修正をユーザー自身が行うことは,技術的にほぼ不可能でしょう(FD1238Tの分解方法 を参照).
 注:"前期型" は底面のベアリングに黒いシールが貼ってあるもので,そうでないものが "後期型" といいます(つねごんさんの2021年11月21日のツイート を参照).

特定のFD1139C(FD1139Tもでしょうか)でフォーマットしたメディアが,別の正常なFD1139Cでは読めるものの,種類の異なる正常なFDD(FD1138Tなど)では読めないことがあります.この現象は,そのメディアをフォーマットしたFD1139Cが "正常" とは言えないことを意味します.FD1139Cは他のFDDより動作マージン(?)が大きいのでしょうか(Youtubeの動画,PC-9801USのメンテ ~もう修理とはいわない~を参照).


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