FD1135Dの分解と修理


いっちゃんさんより,FD1135Dが内蔵されたPC-9831-VW2をご恵贈いただきました.またtshさんよりご指導をいただきました.

FD1135Dの代表的な故障はメディアがセットできないというものでしょう(注1・2).これは,メディアを挿入しても奥まで入らず,メディアをセットした際のカチャッという音も鳴らず,イジェクトボタンも飛び出して来ないというものです.下はFD1135Dを横から見た画像です.
 注1:他にヘッドの破損やヘッドの位置ズレも多いといいます[おふがおさんの2023年6月4日(12)・10月7日のツイート,Lynfieldさんの2023年6月5日のツイート を参照].両者ともユーザー自身による修理はまず無理でしょう(FD1238Tの分解方法 の冒頭などを参照).
 注2:ディスク検出がマイクロスイッチでなくフォトカプラにより行われるため,本FDD開発時には存在していなかった,ケース部分が透明(着色されているものもあります)なメディアが検出されない問題があるといいます(おふがおさんの2023年10月7日のツイート を参照).勿論これは故障ではありません.


上段はメディアが挿入されていない状態です.FDDが正常であれば,メディアが挿入されると,カチャッという音とともに,下段の画像のように内部の金属板(カセットホルダー)のシャフトが下に降りた状態となりますが,故障していれば,メディアを押し込んでもシャフトが降りません.これは,本来シャフトの移動をスムーズに行わせるために塗布されていたはずのグリスが変質(硬化)したためです(樹脂のような状態となり,シャフトをレール部分に貼り付けてしまいます).またイジェクト機構のスライド部分のグリスも同様に変質します.

変質したグリスを除去するためには,FD1135Dをかなりのところまで分解する必要があります.本記事ではその手順について説明します.
 追記1:FDD側面の金具の露出部分に注油すると,シャフトが移動してメディアがセットできるようになるとの報告があります(アリゾナ@PC&3199さんの2023年2月15日のツイート を参照).このケースでは1年半ほど前までは動作していたといいますが(アリゾナ@PC&3199さんの2023年2月14日のツイート を参照),グリスの硬化が比較的軽微であればこの方法も有効なのでしょうが,注油の量などいくつか注意すべき点があるようにも思われます.
 追記2:分解作業の動画がYoutubeの3.5インチFDD修理動画 PC-9831VM2で公開されています.


本記事で分解対象としたFD1135Dは,NEC製外付けFDDであるPC-9831-VW2に内蔵されているものです(P/N 134-500182-008-0,制御基板はG9YZD).FD1135DにはP/Nの異なるものが他にいくつもありますが[HAMLIN's PAGE --> FDD関係 --> FDD_1 PC-9821・9801・PC98-NX・PC/AT互換機用3.5インチFDDの互換性一覧表 の "98-2-42グループ" を参照.他に採用機器不明の P/N 134-500182-007-0 を確認しています(注)],いずれも恐らく同様の手順で分解が可能と思われます.
 注:P/N 134-500182-007-0 のものはPC-9801UV2/UV21で使用されているといいます(sakohitiさんの2021年2月7日のツイートを参照).なお P/N 134-500182-007-0 のものも制御基板は 134-500182-008-0 と同じくG9YZDですが,天板の形状が異なり,また通常の3.5インチドライブよりわずかに横幅があるとのことです[sakohitiさんの2021年2月7日のツイート(1234)を参照].


■天板を外す
まず天板(シャーシの上蓋)のネジ(緑丸の部分)を外します.


次に天板左側面(背面から見た場合)後部を少し持ち上げます.


フロントベゼル(FDD前面のプラスチックのパネル)およびシャーシ側面後部と天板との噛み合わに注意しながら,天板を後ろに引き抜きます.スッと引き抜けるものでもないので,作業は慎重に行って下さい.天板を外すと制御基板が現れます.


■制御基板を外す
制御基板を外すためには矢印の先の5つのコネクタを外す必要があります.コネクタの隙間にマイナスの精密ドライバーの先を差し入れるなどして丁寧に外して下さい.また外す前にも外している最中にも,それぞれのコネククのケーブルの取り回し(制御基板のどの切り欠き部分を通っているかなど)を十分にチェックしておいて下さい(注).フロントベゼルのそばのコネクタは白丸の位置に注意して下さい.
 注:これらのケーブルは狭いスペースにギチギチに押し込められているため,強い圧迫痕がついています.再組立て時にはこれを手掛かりにケーブルを戻すのですが,分解時のケーブルの取り回しのチェックが不十分だと,戻し方に悩むことになってしまいます.筆者が初めてFD1135Dを修理した際には,圧迫痕があるからと慢心してこれを怠ったため,大変な目に遭いました.


制御基板の下にはヘッドのシールドなどのために組み込まれていると思われる金属板があります.制御基板はこの金属板のフロントベゼル側の2本のツメ(緑丸の部分)にはまっており,また2本のネジ(黄丸の部分)でシャーシに固定されています.制御基板と金属板の間にはプラスチック製の絶縁板が挟まれています.


制御基板とその下の金属板を外した状態です.



■フロントベゼルを外す
フロントベゼルは上の両脇の小さなツメと下の2本のネジで固定されています(上の画像を参照).丁寧に取り外します.

■黒い金属板を外す
上の画像の黒い金属板(メディアが挿入される金具.正式名称はカセットホルダー)を外します.まずFDD両側面のばねの上側だけ(緑丸の部分)を外します.


次にヘッド後方の突起を持ち上げ,横のシャフトに注意しながら黒い金属板を慎重に取り外します.この部品の取扱いは,外す場合にも再組み立て時に戻す場合にも,非常に神経を使います.シャフトとその周辺にはグリス(完全に硬化しておらず,一部ベトベトしていることがあります)が付着していますので注意して下さい.なおこの時(および再組み立て時)に,長い突起の付いた蓋状の黒い部品(下の画像の緑枠内)が外れてしまうことがありますが,これは破損ではありません.この部品は元々外れやすくなっており,簡単に元に戻すことができます(注).


 注:この部品のないロット(?)があるとのことです(Lynfieldさんの2022年9月23日のツイート を参照).筆者は遭遇したことがありません.この部品の機能についても考えたことがありません.

黒い金属板を外した状態です.緑丸の部分はグリスが塗られている箇所です.


■イジェクト機構を外す
イジェクト機構(イジェクトボタンのついている黒い金具で,FDDの底面をスライドする部品)と,左右の金具を外します.前者を外すためには,ばねの一方(上の画像の黄丸の部分)を外す必要があります.また後者は左右ともそれぞれ後方の1本のネジで固定されています.右側の金具のネジは,ドライバが他の部品と干渉して回しにくいと思います.太めの精密ドライバの軸をペンチで挟んで横から回すなどの工夫が必要でしょう.その際ネジ頭を舐めてしまわないよう十分ご注意下さい.

これらを外した状態です.変質したグリスを除去するためにはここまで分解する必要があります.緑丸の部分は,グリスが塗布,あるいは付着している箇所です.他より大きな緑丸の部分は,グリスの除去作業がとりわけ大変な部品です.


グリスは削り取ったり掬い取ったりすることで大部分除去できます.ただし黒い金属板の場合には,金属製の工具を使用すると塗装を剥いでしまうことがあります.細かい部分や取りにくい部分に残ったグリスは,ブレーキクリーナー[ワコーズ(WAKO'S)製 ブレーキ&パーツクリーナー BC-8 など]等の化学的な手段を併用して除去するとよいかもしれません[はにはにのヴィンテージPC新品再生ブログ --> NEC PC-9821AP初代のドライブの修理と内臓HDDをCFカード化をしました(2016年3月25日の記事)を参照].なおブレーキクリーナーによっては,洗浄液が気化熱を奪うために噴射された部品が急激に冷却され結露する(水浸しになる)場合がありますので,使用には注意して下さい.

変質したグリスを除去した箇所には,良質のグリスを新しく塗ります.グリスはタミヤ製の "セラグリスHG" などの評判がよいようです(かおる@ヤドンさんの2019年11月24日のツイート などを参照).シリコングリス(セラミックグリスより粘度が高い.呉工業のシリコングリースメイトはチューブ入りのペーストタイプと缶入りのスプレータイプあり)を奨める方もいます[kobefs@パソコンの人☆彡さんの2020年7月19日のツイート(12)などを参照].自転車用のSHIMANO製プレミアムグリスという選択肢もあります(かおるさんの2021年9月26日のツイート を参照).グリスの塗り過ぎと飛び散りに注意して下さい.なおFDDに使用される潤滑剤に要求される性能は,ベアリング用のグリスに要求されるものと同等といいます(ジュンツウネット21 --> Q&A 潤滑油そこが知りたいQ&A --> グリース --> フロッピーディスクドライブに使用される潤滑剤 を参照).

■再び組み立てる
分解時と逆の手順で丁寧に組み立てます.黒い金属板(カセットホルダー)の取り付け作業が最も神経を使います.下の画像の緑丸の部分の2つの突起がこの金属板より上の位置になるように取り付けます.



※FD1135Dのジャンパスイッチの設定は,3.5インチ化計画(注) --> PC-8801FH NEC FD1135D編 および エマティなリサイクル --> 研究発表会 --> 98FDDドライブ設定表 --> FD1135D設定表 を参照して下さい.
 注:この資料でのDHGはDCGの誤記です.制御基板上のジャンパスイッチの位置を下に示します.なおTSTジャンパはメーカー等でのテスト用と思われますが,内容は不明です(出荷時設定はショート ).


※※PC-9801UのFD1035(2DD専用ドライブ)をFD1135Dで代替する際のジャンパスイッチの設定情報が,おふがおさんの2022年3月28日のツイート にあります(画像で示されています).


追記:一次資料である "日本電気株式会社 (1986). FD1135D 3.5"フロッピィディスク装置概説書(806-520300-1)REV.2" と "日本電気株式会社 (1987). FD1135C 3.5"フロッピィディスク装置概説書(806-520228-1)REV.4" によるFD1135C/Dの消費電流は下記の通りです.

消費電流(待機時電流/ヘッドロード機構なしでの起動時電流/ヘッドロード機構なしでのREAD時電流)
・FD1135D
  +12V 0mA/270mA/100mA
  +5V 50mA/210mA/210mA(ヘッドロード機構がある場合は310mA)
  READ時消費電力 2.3W(ヘッドロード機構がある場合は2.8W)
・FD1135C
  +12V 0mA/270mA/100mA
  +5V 50mA/210mA/250mA(ヘッドロード機構がある場合は310mA)
  READ時消費電力 2.5W(ヘッドロード機構がある場合は2.8W)
※ヘッドロード機構がない場合の+5Vの消費電流値の値がFD1135Cの方で若干高いものとなっていますが,ここでは資料での値をそのまま記載しました.

FD1135Cの17ピンはGNDとなっています.一方,FD1135Dの17ピンはFD1155Dと同じくDRIVE SELETED信号となっています.


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