PC-9801N/NV/NSの本体内部から
映像信号を取り出す方法


技術評論社編集部(編) (1993). ざべ特別公開講座 98パワーアップ改造名人 技術評論社に,外部ディスプレイ接続用コネクタを持たず,CRTパックにも対応していないPC-9801N/NV/NSの本体内部から映像信号を取り出す方法が紹介されています.

(1) PC-9801N/NSの8色画面を外部ディスプレイに表示させる方法
8色画面を表示させる方法です.本項の記述は,本田未智・岩崎 翔 (1993a). PC-9801NOTEシリーズのカラーCRT出力化改造 ~デジタルRGB出力化編~. 技術評論社編集部(編) ざべ特別公開講座 98パワーアップ改造名人 技術評論社, pp.146-151. の記事に拠ります.この記事の初出は ざべ(THE BASIC)1992年4月号 です.PC-9801NSでの工作に関しては,山葉 剛 (1992). カラー表示で見やすさ倍増 NSカラーディスプレイ・インターフェイス回路の製作. 98バリバリチューン, pp.104-107, アスキー(1992年10月1日発行) にもほぼ同じ内容の記事が掲載されています.

PC-9801Nではマザーボードの表側,またPC-9801NSではマザーボードの裏側に,LCD3(140646)というQFPのLSIがあります.このLSIのデジタルRGB関連の信号はマザーボード裏面のランド(銅色をした■)に出ており,ここからデジタル8色表示関連の信号を取り出します.このランドは,PC-9801Nでは110ピン拡張バスコネクタに近い位置にあります.下におふがおさんがリサイクル掲示板2023年7月過去ログの "汎用スレッド2023年7月" スレッド に投稿された一つ目の画像から切り出したもののガンマ補正値を上げ文字列と線を書き加えたもの(左)と,同じスレッドに投稿された二つ目の画像から切り出して2倍に拡大したものに塗りつぶした矩形と文字を書き加えたもの(右)を引用します.引用画像外の文字列は,説明のために筆者が加えたものです.ランドの位置と信号名は,本田・岩崎 (1993a) の図50のものに従っています.


参考のため,本田・岩崎 (1993a) の図50のスキャン画像を引用します.チップ抵抗の数が上の画像のものとは異なっています.


またPC-9801NSでは当該ランドはLCD3の隣にあります.下に,ヤフーオークションで出品者IDが trgetter,オークションIDが j1063930788(2022年10月8日に落札)の出品物の画像から切り出したものに文字列と線を書き加えたもの(左)と,切り出したものを4倍に拡大して塗りつぶした矩形と文字と線を書き加えたもの(右)を引用します.引用画像外の文字列は,説明のために筆者が加えたものです.ランドの位置と信号名は,本田・岩崎 (1993a) の図51のものに従いましたが,この図ではVSYNCとHSYNCのランドの位置が区別されていませんでしたので,HSYNCのランドの位置は山葉 (1992) の図3のものに従いました.


これらのランドから取り出した信号を,バッファICである74HC244を通した後,PC本体のRS-232Cコネクタの空きピン(使用されていないコネクタピン)を使ってPC外部に引き出し,外部ディスプレイに入力させます.外部ディスプレイがデジタルCRTかアナログディスプレイかによって,作成すべき回路の配線が一部異なります.下図左がデジタルCRT表示用で,右がアナログディスプレイ表示用です.これらの図は,本田・岩崎 (1993a) の図48・49を改変したものです.なお74HC244の+5VピンとGNDピンの間に0.1μF程度のバイパスコンデンサを接続します.下図左での400Ωの抵抗については,PC-98用ディスプレイ変換コネクタの "丸型8ピンコネクタ(デジタル) → Dサブ15ピンメスコネクタコネクタ(アナログ)" の項 を参照.なお画面が映りさえすればよいといった程度の使い方をするのであれば,フェライトビーズ(ノイズフィルタ)はなくてもよいでしょう.


デジタルCRT表示用回路では,CLOCK信号を必要とする一部のデジタルRGB用CRT[NTSC方式のものや,PC-9801RXより前の機種用のもの(?)]を接続する場合には,74HC244の6ピンにCLOCK信号を,それ以外のデジタルRGB用CRTを接続する場合には,このピンにGNDを接続します.

デジタルRGBコネクタのピンアサインは,radioc.dat --> NEC PC-98基本情報 書庫目録 --> モノクロディスプレイ用端子とデジタルRGB端子 を,またアナログRGBコネクタ(本項の工作では15ピン2列のものを使用していますが,これを15ピン3列のものに変更することもできます)のピンアサインは本記事の冒頭の図をそれぞれ参照して下さい.またRS-232Cコネクタのピンアサインは,RS-232Cコネクタのピンアサイン試運転の資料館 --> 営繕部 --> 国産電算機のピンアサイン の記事の シリアル端子 ピンアサイン の項,テクノベインズ株式会社 --> 技術情報 --> シリアル通信関連 コネクタ資料 などを参照.74HC244のピンアサインは下図を参照.


マザーボードとPC本体のプラスチック筐体との隙間(クリアランス)が殆どないため,74HC244にフラットパッケージ型でなくDIP型のものを使用する場合には,脚の部分を切り詰めて高さを4mm程度に抑えるなどの工夫が必要になります.DIP型の74HC244は,マウスコネクタとRC-232Cコネクタ,あるいはプリンタコネクタと110ピン拡張バスコネクタの間にある "信号アース"(記事の画像を見ると,コネクタのフレームの固定用突起部がマザーボードにハンダづけされている部分を指すようです)に1・8・10ピンをハンダづけして固定するとよいでしょう(絶縁テープなどによってこれらのピン以外のピンを絶縁する作業が必要).山葉 (1992) には,PC-9801NSではプリンタコネクタと110ピン拡張バスコネクタの間にフラットパッケージ型IC用の予備パターンが3個あり,フラットパッケージ型の74HC244を使用する場合にはこのパターンが利用できるとあります.3つ上の画像左にはそのうちの2個が写っているようです.74HC244用の電源(+5V)はマウス接続用コネクタの1番ピン(マウスコネクタ(丸型←→角形)変換ケーブルの結線の "Dサブ9ピンオス" のものを左右反転させた場合の右上のピン]や110ピン拡張バスコネクタのA1・A2・B1ピンがら取るとよいでしょう.なおRS-232Cコネクタの1・2・3・4・5・6・7・8・15・17・20・22・24の13本のピンはRS-232C信号ピンですので,RS-232Cも使用する場合には,これらの信号を映像信号とは別に引き出します.

(2) PC-9801N/NV/NSの16色画面を外部ディスプレイに表示させる方法
16色画面を表示させる方法です.本項の記述は,本田未智・岩崎 翔 (1993b). PC-9801NOTEシリーズのカラーCRT出力化改造 ~アナログRGB出力化編~. 技術評論社編集部(編) ざべ特別公開講座 98パワーアップ改造名人 技術評論社, pp.152-158. の記事に拠ります.PC-9801Nと,それ以前に発売されたラップトップ機であるPC-9801LV/LX/LS等は,同じグラフィックス用LSI(D9014R)が使用されているのに対して,外部アナログディスプレイ接続用用コネクタは後者にしかないこと,またCRTパックに対応しているPC-9801NS/Eと対応していないPC-9801NV/NSで,同じグラフィックス用LSI(D95004GL)が使用されていることがこの工作のヒントとなったということです.

PC-9801Nではマザーボードの表側にD9014R(3つ並んでいる大きなPGA LSIの中央のもの)が,またPC-9801NV/NSではマザーボードの裏側にD95004GL(PC-9801NSではCPUの横のより大きな方のQFP LSI)があります.PC-9801NのD9014Rでは底面のピン(マザーボードの裏側,ピン間隔約2.5mm)から,PC-9801NV/NSのD95004GLでは横に伸びたピン(ピン間隔1mm以下)から信号を取り出します.下は両LSIのピンの信号名です.これらは本田・岩崎 (1993b) の図55・56のものに従っています.PC-9801NのD9014Rの向きに注意して下さい.なお内側のピンのないマザーボードの領域には,白線で囲まれた16D1・17D1・17E1・18D1・18D2の各ランドにチップ部品が実装されています.またPC-9801NV/NSのD95004GLの1番ピンの位置はマザーボード上の白い▲により示され,またピン10本ごとにマザーボード上に白い●のマーキングがあります.


R・G・B各色4ビットの信号を,バッファICである74HC244を通した後ラダー抵抗型D/A変換回路により各色16階調のアナログ信号に変換します.これにより4096色中16色表示が可能となります.それをトランジスタで増幅したものを(1)と同様にRS-232Cコネクタの未使用ピンを利用してPC外部に引き出します(VSYNC信号とHSYNC信号は,74HC244を通した後外部に引き出します).下に本田・岩崎 (1993b) の図54を改変した配線図を示します. なお74HC244の+5VピンとGNDピンの間に0.1μF程度のバイパスコンデンサを接続します.本田・岩崎 (1993b) では,PC本体からの+5Vラインが74HC244に接続される前の位置にも,GNDとの間にに0.1μF程度のバイパスコンデンサが取り付けられています.トランジスタには2SC3011が使用されています.


この工作を行ったPC-9801NSはヤフーオークションに何度か出品されています.筆者の確認したものは,いずれも工作の具合が明らかに手慣れた感じのするものであり,またD/A変換基板として本田・岩崎 (1993b) に写真91として掲載されている "DAC基板" というプリント基板が使用されていましたので,この工作(改造と言うべきでしょうか)を有償で請け負っていたという東京都千代田区東神田にあったヒグチユニオン,あるいは関連ショップで業者の手により改造が行われたものと推察されます.ヤフーオークション出品物のハンダづけの箇所の実例です.ヤフーオークションで出品者IDが ae1056,オークションIDが b1067660711(2022年10月30日に落札)の出品物の画像から切り出して1/3に縮小しガンマ補正値を上げたもの(左上,RS-232Cコネクタへのライン),出品者IDが trgetter,オークションIDが j1063930788(2022年10月8日に落札)の出品物の画像から切り出したもの(左下,D95004GLからのRGB信号の取り出し),出品者IDが ae1056,オークションIDが s1096216903(2023年6月25日に落札)の出品物の画像から切り出して1/3に縮小しガンマ補正値を上げたもの(中央,配線全体)と1/4に縮小してガンマ補正値を上げたもの(右,"DAC基板" 部分の配線)を併置してjpg形式に再変換した画像を引用します.


上の画像中央の事例では,すべての配線をマザーボードの裏側で行っていますが,一部の配線をマザーボード表側で行っている例もあります.ヤフーオークションで出品者IDが trgetter,オークションIDが j1063930788(2022年10月8日に落札)の出品物の画像の出品物の画像から切り出して文字や線を書き加えたものを併置しjpg形式に再変換した画像を引用します.この例では,D95004GLからのラインをマザーボードの端からマザーボード表側に引き出し(画像左),D/A変換回路を通した後スルーホールから再度マザーボード裏面に導いてRS-232Cコネクタに接続しています(画像右).なぜこのような配線の仕方をしているのか,PC-9801NSを所有していない筆者にはわかりませんが,D/A変換基板の周囲のスペースやクリアランスの都合からなのでしょうか.



トップページ